お店・お客様の声

日本橋浜町ワインサロンのFacebookより

日本橋浜町ワインサロンのFacebook https://www.facebook.com/nh.winesalon/ からシェアします。スイスワインをこんな風によく咀嚼(そしゃく)吟味して解釈して書かれた記事は、他ではほとんど無いです。ぜひ、じっくり目を通されてみてください。(なお、サロン主催の田中氏のブログはこちら⇒ http://pecotan.air-nifty.com/katsuyuki/2017/07/post-c3bc.html  )

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 日本橋の杉山商事で、彼らが輸入する一連の「やまきゅういちスイスワイン」をテイスティングする機会がありました。
 スイスにはいろいろな品種があり、細かいことを言っているときりがありませんが、なんといっても白のシャスラーと赤のピノ・ノワールは基本中の基本。このふたつの品種のワインはスイスでは対極的ともいえる表情を見せることが多いのがとても興味深い点です。
 つまりシャスラーはほっこりふっくら、ピノ・ノワールはすっきりくっきり、です。スイス=山=冷涼&緊張感と考えると、シャスラー、とりわけレマン湖北岸の西から東にかけて広がる高名な産地、ラ・コートとラヴォーのシャスラーの味はそのイメージとはずいぶんと異なり、むしろ温かくてやさしくておとなしくて滋味深いワインです。
 ですから家庭料理にはシャスラー。スイスワインに詳しくない方なら、まずはこの定式を覚えておくのがいいと思います。「家庭料理にもいろいろあるではないか、シャスラーはクリュによって大きく味が異なるではないか、醸造法によっても違う」、と言われればその通りです。それでもシャスラーは緊張感を強いない味...という点は共通しています。そして家庭料理のひとつの重要な本質とは、緊張感を強いない味だということです。
 これは抽象的な「質」の話ではありません。例えば洋服を考えてみましょう。社交ダンスにふさわしい服とビーチにふさわしい服は違います。いかによい「質」か、より、それぞれの状況にどちらがふさわしいか、のほうがはるかに重要です。困ったことに、ワインの場合、状況適合性より絶対的な質を重視する傾向にあります。ジャージの上下よりタキシードのほうが「質」がいいと考え、結果として、フォーマルパーティ的なワインばかりが増えて、実際の家庭料理とはノリが違うことになります。
 シャスラーにはジャージ的な疲れなさがあります。おとなしいアルコール、おとなしい酸、おとなしい香り、おとなしい構造。そのよさ、そのありがたみがわかる人は、きちんとワインと料理を家庭で楽しんでいる人だと思います。
 とはいえ、スイスのシャスラーはスーパーで売っているジャージではなく、譬えるなら、最高級素材を使ったオートクチュールのジャージです。超がつくほどお金持ちの国がスイスです。彼らの日常の一部たるシャスラーは、高級・高品質なカジュアルワインです。キャビアやフォワグラではなく、良質な豆腐と良質の味噌を使った普通の味噌汁です。このような位置づけにあるワインは、世界を見渡してもそうそうありません。

試飲ワインの最もベーシックなアイテム、アンリ・クルションのル・モルジェ2015年(2900円)は、まさにそういったワイン。しっとりとした質感や柔らかい果実味と酸はまさにシャスラーに期待する要素ですし、力の抜け具合が絶妙で、必要な項目をしっかりとおさえつつ、でしゃばることがありません。

スイスワインに詳しい人なら、それは当然のこと。今さらそんな話をするな、と言われてしまいます。確かに、そういう人に向けては、珍しいサヴォワ品種のモンデューズのワインのようなマニアックなものについて語っているほうが受けがいいでしょう。そのドメーヌ・メルムテュスのヴァン・デュ・バクニ2014年(6800円)は、冷涼感たっぷりの、ぴしっとした締まりのある、上品なワインです。サヴォワと異なるスイスらしいモンデューズ表現とは何か、に興味がある方には絶対のおすすめです。しかし多くの人にとってはそれより先に理解せねばならないワインがあります。今の私にとっての関心事は、スイスのシャスラーは万人にとっての基本アイテムのひとつになりえるワインであり、家庭に常備するにふさわしいワインなのだと、多くの人に伝えることです。
 本当なら、ヴィネクスポ東京なりフーデックスなりで、他の国々がやっているように、スイスワイン合同ブースを設けて、スイスワイン未経験者に広くテイスティングの機会と基本情報を提供することが必要だと思います。スイスのコアなファンだけとコミュニケーションしていてはもったいないし、素晴らしいワイン、特にシャスラーという稀有な存在に対して申し訳ない。スイスワイン関係者全体でスイスワインを拡販しようというチームスピリットを持つべきです。皆で仲良くして、小さなパイの奪い合いより、皆でパイを大きくする努力をまずはしないと。そもそもスイスじたいも、高級時計や医薬品やネスレ商品や金融商品を売っているほうが何万倍も儲かるわけで、もともと輸出する必要さえないワインのPRに積極的に国家予算を費やすわけがありません。だとすれば関係者の皆で力を合わせるしかないと思うのですが。

最近輸入されるようになったスイスのピノ・ノワールの最高峰、イストワール・ダンフェールのカルケール・アブソリュ2012年(16000円)。美しいスイスの「山」の感じを求めるなら、これ以上のワインはないと言えるほど、すっきりくっきりした姿形。澄み切った見晴らしのよさの中で浮かび上がる、まさにスイス的な精密なディティール。涼し気な赤系果実の香りと緻密なタンニンと硬質な酸。余韻の淀みのない広がりと圧巻の長さ。シャスラーとは逆に、完璧なフォーマルドレス的ワイン。鑑賞して見とれる対象。世界のピノ・ノワールの中でも傑出した抜けのよい空気感があります。高価ではありますが、何と比較してか、ということ。コート・ド・ニュイ1級と同程度の値段ですが、これは1級の味ではなく、グラン・クリュの味です。

〈田中克幸〉

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